風の子会の会報で連載記事を始めました。毎号掲載予定なので、こちらにも定期的に載せていけたらと思っています。

よかったら、感想などもお待ちしています。


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わたるのドミトリーライフ
【ドミトリーとは英語のdormitory つまり寮という意味】

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 昔語りをするほど歳を取った訳ではないが、人生の折り返し点に差しかかったという自覚のある年齢になり、これまでを少し振り返ってみてもいいのではないかと思うようになった。僕のこれまでで一番輝いていたのは、なんといっても学生時代だ。好奇心に溢れ、野心があり、体力も気力も最も充実していた。青春という言葉は今は古臭く聞こえるかもしれないが、僕にとっての学生時代はまさに青春そのものだった。
 学生時代を少しずつ振り返ることによって、あの頃は良かったという懐古趣味的なものに陥るのではなく、当時の元気を取り戻したいという思いも一つにはある。それに、こういう話を読者の皆さんに読んでもらって、僕という人間を少しでもわかってもらえれば、それはとても嬉しいことでもあるのだ。
 これは、そんなあるメンバーの昔語りである。

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序章 学生寮に住むということ

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 高校を卒業し浪人期間を2年過ごした後、推薦試験でやっとの思いで受かった学校は家から車で1時間近くかかる距離にある、東京と神奈川の県境にある小さな大学だった。毎日の通学を1時間かけて通うことを親に頼むというのも何だか気が引けたし、幸いにも学部棟の隣りに学生寮があったので、そこで生活をしてみようということになった。当時の僕は親元を離れる不安感よりも、新しいキャンパスライフと寮での初めて会う人たちとの触れ合いに対しての期待感でいっぱいだった。
 僕が住むことになった学生寮は、お世辞にも綺麗な建物とはいえなかった。築20年以上建っているその鉄筋コンクリートむき出しの寮棟は、今にも崩れ落ちそうな気配すら漂っていた。トイレと風呂は共同だし、廊下はゴミ袋で溢れかえっている。食堂も会議室に毛の生えた程度のもので、今思うとよくあんなところで生活ができたものだと我ながらに思う。
 入学式の前日に入寮式があり、その日が僕ら新入寮生の寮生活の始まりの日だった。寮に着き、初めて自分の部屋にはいると、そこにはジャージ姿で体育会系のがっしりとした体格の、無精ヒゲを備えた男がいた。「君が小野塚か?」といった彼は、どうやらこれから1年間、一緒に生活をする先輩らしかった。
 「よろしくお願いします」と頭を下げたものの、彼とうまくやるのは難しそうだと会ってすぐに直感した。実際、この先輩とは1年後にも初めて会ったときと印象は変わらなかった。

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~ 第1話へ続く ~