わたるのドミトリーライフ

【ドミトリーとは英語のdormitory つまり寮という意味】

第1話 新歓期という時期

 入学してはじめの1、2ヶ月は新入寮生歓迎期、いわゆる新歓期という時期である。先輩の部屋を各々訪れて挨拶回りをする“部屋回り”、新入寮生が4つのグループに分かれて演劇を披露し先輩たちに採点してもらう“演劇大会”、大学の体育館を借り切ってみんなでバレーやバスケなどをする“スポーツ大会”、そして新入寮生たちがみんなで弁当を作り、寮から4、5キロ先にあるピクニックランドまで歩いていく“ハイキング”。こうした新歓行事を通して、1年生同士や先輩たちとの交流を深めていくのである。
 部屋周りでは緊張する中で先輩たちに必死に挨拶をする。中には酒を勧めてくる先輩もいて、緊張感は絶えない。僕はそのころはまだあまり飲めない方だったので、緊張とアルコールで頭がグラグラになり、大変だった。演劇大会は、1年が4つのグループに分かれてそれぞれにアイデアを駆使して短い劇を演じる。先輩たちがそれを採点して順位付けをする。優勝グループには特別賞としてディズニーランドの招待券がもらえるというから、1年はみんな必死に劇に取り組む。けれどもそれは嘘であり、優勝が決まったと同時にそのグループはとても落ち込むことになるのだ。落ち込んだ1年たちを先輩がファミレスへ連れて行き食事をおごってくれる。いわゆるこのどっきり企画は先輩たちにとっての毎年恒例のだましイベントなのだ。
 スポーツ大会が終わると記念写真を撮るために池之端へ集合する。1年が全員前列に並んで座り、先輩たちがその後ろに並ぶ。「ハイチーズ!」のかけ声と同時に先輩たちが一斉に1年をドン!と押す。何も知らない僕らはそのまま池の中へドッボーンと落ちる。苔まみれの池にどっぷり浸かった僕らは全身ずぶ濡れのドロドロ状態で寮に帰る。帰るとすでにお風呂が沸いていて、入る準備ができている。先輩たちが前もってお湯を入れていてくれたのだ。ずぶ濡れになった1年と先輩が一緒になって風呂に入る。こうした裸の付き合いをすることで、より親しくなれるのだ。
 新歓期最後の行事はハイキングだ。1年が先輩たちの分の弁当も準備して4、5キロ先にある“こどもの国”というところまでみんなで歩いていく。住宅街や川沿いをおしゃべりをしながら歩く。やっとの思いでついたその場所は、芝生の広場がありサイクリングコースがあり、牧場がありプールがありという広大な遊び場だ。僕らはそこの広場に座り、持ってきた弁当をみんなで輪になって食べる。ゴールデンウィーク初めの頃の暖かい陽差しを浴びながらみんなで外で食べる弁当は、それはおいしいものだ。
 5月を過ぎると新歓期も終わり、みんなそれぞれ自分たちの生活も落ち着いてくる。学校の授業の受け方やサークル活動、生協や図書館の利用方法もそれなりに覚える。そして、寮の中での人間関係もそれぞれに出来はじめる。好きな奴嫌いな奴、苦手な先輩と頼りになる先輩。4、50人の人間が一つの建物で暮らしていれば、そういった人間関係の機微が生じるのも当然だ。いってみれば、それが寮生活というものだろう。
 僕がとても頼りにした人は、隣の部屋に住んでいた学年が2つ上の関西出身の先輩だ。とても可愛がってくれた、僕の寮生活には欠かせないおにいちゃんだ。

~ 第2話へ続く ~