わたるのドミトリーライフ

【ドミトリーとは英語のdormitory つまり寮という意味】

第2話 大切な人と巡り会うということ

 きっかけが何だったのかは、今ではもう定かではない。けれども僕にとって彼は欠かせない存在となっている。学生時代を通じて一番頼りにした先輩であり、悩み事を打ち明けたり夜通し遊びまくったり、時には厳しく叱ってもくれた。高校までは先輩後輩という付き合いがなかったので、僕にとっての初めての先輩であり、ある意味では兄のような存在となっている。
 エピソードを挙げればきりがない。大磯までドライブに行ったはずが、気がつけば東名が名神になり、神戸に辿り着くというとんでもなく激しいドライブをしたこともある。夜の六甲を上り、展望台から眺めた神戸の夜景の素晴らしさは、僕は一生忘れることはないだろう。同時に、80キロしか出ない軽のワゴン車で延々と高速を走り続けたしんどさも忘れることはないだろうが。
 「先輩ハラ減った。どっか連れてって」誰かが言うと、先輩は二つ返事で車を出してくれる。寮の近くにはコンビニもファミレスもあるのに彼はそこには目もくれず車を進める。気がつくと高速に乗っていて海老名サービスエリアに入る。軽く夜食が食べたかっただけなのに、彼に頼むと必ずそんな結果になってしまう。けれどそれがわかっていながら僕らも彼を頼ってしまう。彼には僕らを惹きつける何かが確かにあった。
 恋愛の相談や人生について、友人関係での悩み事などに彼は真剣に耳を傾けてくれた。そして僕にとっての明確な答えを彼はいつも指し示してくれた。彼の言葉は僕をいつも励まし、前に押し出してくれた。彼の支えがなかったら、僕は何度か大きく挫けていただろう。
 卒業して何年か経つと、彼は神戸に帰ってしまった。けれどその後も彼との付き合いは続いている。時には僕が神戸に行き、時には彼が東京へ来る。会うと必ず飲むことになる。学生時代を懐かしみ、近況を語り合い、将来を希望する(お互いもうそんな歳ではないのだが)。彼と会って色んな話をすると、僕もまだもう少し頑張れるんじゃないかと思えてくる。
 人が生きていく上で大切なものがいくつかある。自分を前に押してくれる人と巡り会えることは、とても大切だ。僕にとって彼は間違いなくそういう人だ。これからもきっと、ずっと、彼との関係は続いていくだろう。

~ 第3話へ続く ~